ショートエッセイ vol.001

皐月賞を間近に控えて、ショートエッセイを書いてみました。暇つぶしに読んでいただければ幸いです。

  

競馬事始め   2020.04.17 

 

 「競馬狂想曲」という本がある。

 他の畑の知名人でギャンブル好きの人たちが、折々に道楽半分での随筆などを書いたものを、作家でもある阿佐田哲也が編纂している。

 興味深くも懐かしいエッセイ群に、1984年6月「優駿」に掲載された三好徹「ルドルフは青雲を乗せて」という章がある。野平祐二調教師との交流やシンボリルドルフとの出会い、ジャパンカップの始まり、そして、牡馬クラシック三冠の第一関門である皐月賞シンボリルドルフが勝つまでを記している。

 

 僕が、競馬を始めたのはシンボリルドルフ菊花賞からだ。

 牡馬クラシック三冠を達成した時、杉本清アナウンサーの「赤い大輪が薄曇りの京都競馬場に大きく咲いた!!」との雄叫びが、テレビから拡幅された。この時、僕の耳には「赤い怪人が・・・」と聞こえた。「怪人って競走馬の事なのかなぁ。」という間の抜けた記憶が鮮明に残っている。

 当日は、雨が降っていたような気がする。馬場は稍重で、暖かい色の照明がゴール前に照らされていた。最後の直線で外から襲い掛かってきたゴールドウェイを4分の3馬身振り切った。この時、競馬に初めて触れたのだ。

 ゆえに、皐月賞ビゼンニシキとの壮絶な戦いやダービーでスズマッハフジノフウウンスズパレードを差し切ったシーンを生で見ていない。ましてや、前年の牡馬クラシック三冠馬ミスターシービーの存在すら知らなかった。

 そういえば、学生時代の友人が「ルドルフの牧場時代は、自分のいちもつを木の幹にこすりつけてオナニーしていたそうだ。」と言っていた。つまり、それだけ大人びているということらしい。大人だから年上の相手にも負けないのだと単純に感心したのを覚えている。

 

 あれから長い歳月を得て、第80回皐月賞を迎えようとしている。

 時節は、新型コロナウイルスによるパンデミックが世界中を覆い、多くの死者が日々報道されている。非常事態の中で、競馬は無観客で行われている。

 競馬場での応援は叶わないけれど、3戦全勝の2頭が激突することを楽しみにしている。

 コントレイルをルドルフに、サリオスをビゼンニシキと見立てるのか、それとも、サリオスがルドルフで、コントレイルがビゼンニシキなのか、はたまた桜花賞のごとく、既成概念にとらわれない馬が登場するのか、楽しみは尽きない。

 

 僕は、強い馬が勝つという信念を胸に予想する。そして、世界中を覆い尽くす暗い影をも打破するレースを期待している。だから、競馬は素晴らしい。